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雷雨のいたずら by 御剣ひかる

作:御剣ひかる HP:光の庭
分量:10枚  使用お題:川遊び、暑さを凌ぐ、蝉時雨を聞く、肝試し、ライフセーバーの肉体、汗を拭う、溺死者、ゲリラ豪雨  



 暑いけど、体がふるえてる。
 ぼくは今、たきのように急な段差になった川の上にいる。流れの先には、いつもよりちょっと小さく見える友達が五人。
 これから、飛びこまなきゃいけない。その恐怖がぼくをふるえさせてるんだ。
「おーい、ミト。飛び込めよー」
 ぼくが恐怖と必死に戦ってるっていうのに、下からのんきな友達の声がした。

 最初はただの川遊びだった。夏休みになってぼくらは涼しいのを求めて毎日のように近くの川で遊んでいた。川の周りはちょっとした林みたいになってて、木の陰での水遊びは暑さをしのぐのにぴったりのスポットだ。せみしぐれの合唱を聞きながら、それに負けないぐらいの声で水をはねあげた。
 そのうち、一人が「この先におもしろいとこを見つけたぞ!」と得意げになって戻ってきた。
 いつもは行かない、ちょっと川上の方で友達が見つけてきたのは、高さが二メートルぐらいある段差だ。たきみたいに、ざぁざぁと水が流れ落ちてる。
 こっから飛び込もう! って流れになるのに、なーんにも不自然なことはなかった。
 友達は次々に飛び込んでく。みんながあげる水しぶきはとってもきらきらしていて、楽しそうだし気持ちよさそう。
 でも、ぼくは、高いところ苦手なんだっ!
 ぼくは、みんなに「ぽよぽよしてるなー」なんて言われながらおなかをつつかれるぐらい、ぽっちゃりしてるけど、泳ぐのは嫌いじゃないし、自分で言うのも何だけどうまいほうだと思う。だから毎日みんなと川遊びしていたって平気なんだ。
 さすがライフセーバーのとーちゃんの息子だなってみんなほめてくれる。もうちょっと体重落とせばカンペキなのに、って余計なひと言もついてくるけど。
 でも、でもでもでもっ、高いところは、チョー苦手! マジかんべん!
 さすがに家の二階から下を見下ろすぐらいは平気だけど、こんな窓も塀も手すりもない、広い場所で二メートルも下に飛び込むなんて、夜のお墓のきも試しより怖い!
 ひやぁっとした風が急にふいてきて、ぶるっと体がふるえる。冷たいと感じたはずなのに、おでこにはいやな感じの汗がふき出してきた。ぼくは、ぐいっとうででおでこをぬぐった。
「ミト、飛び込めよー」
 下で友達が呼んでる。
「もしかして、こわいのか?」
「まさかなぁ。ライフセーバーのお父さんの子だし、名前も水の人でミトだもんな」
 みんなが笑ってる。ちょっとバカにした感じで。
 そうだよ。ぼくの名前は水人でミトって読むよ。とーちゃんみたいなたくましくなってほしいってつけられたらしいよ。でも今はそんなの関係ねぇ! ってか水の人と高いのがこわいのは別問題だよ。
「とーべっ、とーべっ」
 ぼくがためらってると、下で手びょうしと、とべとべコールがはじまった。
 ……こわいけど、飛び込むしかないのかな。飛ばないで仲間はずれなんてイヤだし。
 ぼくは、そっと足を前に進めた。
 その時、びゅぅっと、また冷たい風が吹いて、ぼくはおもわず目をとじた。

 ふわっとする感覚。
 えっ? と思ったら、息が苦しい。
 なにこれ! 息できてない!
 目を開けると、ゆらゆらとゆがむ景色と、ごぼごぼ、と泡の音。
 ぼく、いつの間に水の中に?
 って、ヤバい、くるしい。早く顔出さなきゃ。
 早くはやく!
 でも体が思うように動かなくて、頭が痛くて。
 ゆらゆら、ゆらゆら、ゆれる景色が、きらきらしていて、きれいで、こわい。
 そんな中で、ふとうかんだのは、ネットニュースのもじ。
 “小学生、川遊びで水死”“死亡したのは藤原水人(みと)くん(11)”
 わらえねぇ、ってか、わらわれる!

「ミトー!」
「どうしたー?」
 よばれて、はっとわれに返った。
 ぼくはまだ川の上にいた。
 さっきまで、バカにしたようにはしゃいでた友達が、心配そうにこっちを見上げてる。
 ぼくはずっとむねに手を当てたしせいで、立ってたみたいだ。
 あれから何もかわってなかったことに、ほっとした。
 ううん。かわったこともある。ちょっとうすぐらくなった気がする。
 あのまぼろしみたいな景色が、あんまりにもきらきらしていたせいなのかな。
 アレは何だったんだろう? ぼくがこれから飛び込んだら、ああなるってこと?
「そ、そんなの」
 ぼくはつぶやいた。
「え? なにー?」「聞こえないぞー!」
 大声で聞き返してくるみんなの、心配そうでもあるけど、ちょっとイラついたような顔を見て、ぼくも目をぎゅっとつぶって力強くどなり返した。
「イヤだ! とびこみたくない!」
 頭の中に自分のどなり声と、何か大きな音がひびいた。
 友達の、うわぁっとか、ひえぇっとかいう声も聞こえた。
 次のしゅんかん、何か生温かいものが、かたとかうでとかに、ものすごい勢いでかかってきた。
 目を開けた。雨だ。すごい雨。これがゲリラごうう、ってやつか。
 そうか、うすぐらくなったのは雨の雲が空にかかったからだったんだ。
 もともと体はぬれてたから平気だけれど、髪の毛から雨がだらだらと顔に流れてきて、目に入って痛い。
 ぼくは、顔をごしごしこすりながら、あわてて川からあがった。
 みんなも、わぁわぁ言いながら集まってきた。木のかげであまやどりする。
 とつぜんのことで、みんなちょっとこうふん気味だ。
「すっげぇな。さっきまでちょっとくもってるぐらいだったのに」
「雨の音もすごいけど、川ももうヤバくね?」
「荷物取りに行って、かえろっか」
 そんな話になったから、木のかげをゆっくり移動して、荷物を置いてきたところまでもどることになった。
「ミトは、命拾いしたな」
 だれかがからかって言いだした。
 飛びこみの話からそれたと思ってたのに、よけいなことを言う。
「とびこみたくなーい! って泣いてたもんな」
 そんな泣きそうな声にはなってないし、泣いてないし。でもここで言い返したらよけいにからかわれるだろうから、だまっとく。

 あの、ぼくの見たのは、なんだったんだろう?
 けっきょく、それはわからなかったけれど、無事でいられたから、まぁいいや。
 ぼくの事故の記事が新聞とかのって、「水の人が水死だってよ、だっせー」「そんな名前だからpgr」とか、死んでまでバカにされることがなくなってよかった。
 あのまぼろしも、ぼくがさけんだ時にぐうぜんにゲリラごううになったことも、ちょっとした不思議体験ってことで、だれにも言わないでおこう。

 ……と、ここで終わってたらよかったんだけど、無事じゃなかったこともある。
 ぼくのあだ名が、ミトからライトに変わったことだ。しかも、飛びこむのがこわいヘタレライトとか言われることもあるし。
 ぼくが叫んで雷が鳴ったから、雷の人でライトなんだって。
 はぁぁ、どっちみち名前でからかわれることになるなんて。
 ゲリラごううがすぐにやむみたいに、そのうちあきて言わなくなるだろうから、それまで目立たないようにあまやどりってことで、スルー決定!
 ……でもちょっと、ううん、結構くやしいから、せめてもうちょっとダイエットして、とーちゃんみたいなかっこいい体になってやろうかな。

(了)
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読ませていただきました

紅月赤哉です。読ませていただきました。

夏のほんのりホラー体験というか不思議体験。それにちょっとしたオチ付ということで良質な掌編でした。
是非ダイエットに成功してマッチョメンになってほしいです!

拝読しました。

川の上でみたのは真夏の白昼夢か、あるいは人ならざる者のいたずらか?
ミトくんの視点で語られる世界は全力でまっすぐで、少年の無垢な心を感じました。
そしてそんな彼を私は母親の視点で読んでいるんだなぁ、と気づきました。
ミトくんととうちゃんの体型との比較も面白かったです。


拝読致しました!

 難しい漢字をあえて使わず、可愛らしいオノマトペを多用した素直な地の文が、小学生らしい雰囲気をうまく出していて、読んでいて微笑ましい気持ちになりました。

 テンポが良く、勢いのある文章展開の中で、ミトくんが「何か」を見ているその瞬間、話の空気が変わったような気がして、狐につままれたような不思議な後味が残りました。
 オチには思わず「くすっ」と笑いがこぼれます。

「雷雨のいたずら」拝読しました。

ご無沙汰しております、森崎です。

私事ですが水人くんの高いところ嫌いが全く他人事とは思えなくて、序盤はもうどきどきして読んでおりました(笑)
かつて女の子だった側としてはそんな怖い遊びしなくていいじゃん! ぷかぷか水に浮かんでるだけで楽しいじゃん! って思ってしまうのですが、男の子たちの世界はそうはいかないんだろうなあと思います。時に向こう見ずなくらいの勇気がないと。

水人くんが見たビジョンはなんだったんでしょうね。
個人的には危険予知能力で、もし飛び込んでたらこうなってたんだよ! と何者かが教えてくれていたんじゃないか…なんて思うんですがいかがでしょうか。
オカルト方面じゃないとしたらライフセーバーのお父さんが見せてくれた救助講習用の映像を思い出して…とかかもしれませんが、ともあれ水人くんは本当に命拾いしたんじゃないかな、と思いました。

拝読いたしました

御剣さん、こんにちは。

自然現象のタイミングは不思議なもので、それによってミト君が助かってよかったなぁ、なんて思います。場合によっては逆の方に作用することもありますものね。
ぽっちゃり体型のミト君がミート君と呼ばれなくてよかった、なんて考えてしまったのですが、そうですよね、今の小学生は知らないよね、なんて1人で勝手に納得していましたw

拝読いたしました!

男子小学生らしい可愛い文体ながら、どきどきしてどうなっちゃうのかと気になり、一気に読ませていただきました!


ごううってのがいいですね。好きです。かわいいです。

拝読しました

御剣さん、こんにちは。
作品読ませて頂きました。

かわいいお話……と、俯瞰で見ている大人だから言えますが、みんなができることを一人だけできない、というのは、子供社会においてはなかなか切実な問題ですね。
ミトくんのいじられ描写が随所に見えますが、お父さんゆずりの泳ぎの上手で、一目置かれているのも伝わってきて、日に焼けたわんぱく坊主たちがわらわらと川遊びをしているんだろうなというほほえましさを感じます。
後からからかわれるとわかっていたでしょうに、イヤなことはイヤだとちゃんと言えたのは偉い。
雷様も、そんなミトくんを褒めてくれたのでしょうか?
ミトくんが見た白昼夢といい、素直な子供は、おそらく何かに守られているのでしょう。
最後の恥ずかしいあだ名をスルーできるなんて、ミトくん、大物です。お父さんみたいなライフセーバーの身体になれるといいですね。

私も高所恐怖症!

高いところは、私も苦手です。
体がすくんで動けなくなるので、みとくんの気持ちが分かる!

それにしても、生きるか死ぬかという疑似体験?の間でも、名前のことを考えてるところが意外と冷静で微笑ましかったです。

葛藤の末、嫌なことはイヤだと言える勇気が持てたみとくん。これからの成長が楽しみです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

拝読いたしました

子供の思いと、ちょっとした白昼夢のような不思議と、自然の悪戯と……
何でもない子供の日常の一場面――でも、その時はとても真剣な永遠のような時間。

ひかる様は、とても子供の心や気持ちがよく分かるお方なのですねv
「そう! 子供の頃はこんなだったよね♪」と、思い出して、懐かしく温かい気持ちになりました。

有難うございました。

読ませていただきました。

児童文学らしい、かわいらしくてテンポのいい文章がいいですね。
運動が苦手で臆病だった自分を思い出して、ちょっと切なくなってしまうけれど……。
現実と白昼夢が入り交じるような、ちょっと不思議なお話で、夏らしい爽快感のある物語でした。

拝読しました。

拝読しました。
やんちゃな男の子たち、夏の日の良い思い出ですね。
水死ビジョンは、神様? からの「いま、泳いじゃダメだよ」というメッセージだったのかも。

きっと、こんな経験がミトくんを、将来、立派なライフセーバーにしてくれるかもしれないですね。

拝読しました。

御剣さん、はじめまして!
夏祭りトップバッターにふさわしいさわやかなお話、楽しく読ませていただきました。

小さいころに高いところから飛び込むとかそういうちょっと危険な遊び、やりますよねー。私の時代は女子でもそういう危険な遊び流行ってました。
崖からスカートで滑り落ちるとか(そしてスカートどろどろにして母親に激怒されるという)
だから、ミト君たちの川での飛び降り遊びもすっごいわかります。そして引くに引けなくなる感じも。
しかも、はやし立てられる感じとか、それを断るとみんなにいじられるかも、とかほんっとによくわかるー!! ってうなずきながら読んでました。
でも、ちゃんと断ろうとしたミトくん、えらいなー。やっぱり水遊びは危ないですもんね。
そしていいタイミングでの豪雨! いやもう、なんかちょっと水神様の怒り的なものを感じましたよ。

そしてまさかのオチ(笑)
呼び名が変わっても軽くかわせるミトくんは大人だなーって思いました。えらいなぁ。

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